富田林市富田林伝統的建造物群保存地区保存計画

富田林市教育委員会告示第1号

 富田林市伝統的建造物群保存地区保存条例(平3年条例第13号)第3条の規定に基づき、富田林市富田林伝統的建造物群保存地区(以下「保存地区」という。)の保存に関する計画を定める。

第1章 保存地区の保存に関する基本計画

1 保存地区の沿革
 富田林市の位置する南河内地域は、古代より石川流域に広がる平野部を中心に発展し、近つ飛鳥や古市古墳群など大阪の歴史を探る貴重な文化遺産が数多く残されているところである。特に南北朝時代以降、南河内は歴史の中核をなす重要な場所となり、信長の天下統一にあたっては、都市建設史上、画期的ともいえる自治都市・寺内町が建設された。
 富田林寺内町は、永禄年間(1558−69)本願寺一家衆興正寺門跡十四世証秀上人の創建に始まる。上人は、当時富田林を含む河南一帯を支配していた守護職・高屋城主安見美作守直正から、「富田の芝」と呼ばれる荒芝地を銭百貫文で入手し、近在の中野・新堂・毛人谷・山中田の四ヶ村から庄屋株2人ずつ、合わせて8人に興正寺別院の建立と畑屋敷、町割りなどの建設を要請した。
 町割りは、六筋七町を整然と区画、周囲には土居(土塁)を巡らし、背割り水路を完備し、汚水は北辺の堀へ流していた。街路はほとんどが土居の中で止まり、外部からの出入りは、街道の道筋にあたる一里山口、山中田坂口、向田坂口、西口の4ヶ所に限られるなど、戦国時代を生き抜く城塞都市としての性格を持っていた。
 江戸時代にはいると富田林寺内町は、周辺農村と経済関係を密接に持つ在郷町として発展し、興正寺別院を中心とした宗教自治都市としての性格は急速に失われた。
 周辺地域は良質の米を始め、綿・菜種などの農産物の良好な生産地で、富田林はこれら諸商品の取引の中心となり、寛文8年(1668)の記録では、51職種、149の店舗が軒を連ねていたことが記されている。
 特に酒造りは盛んで、5軒あった酒屋の造り高は合わせて、四千三百八十石余りで、河州全体の72軒あった酒屋の21%強を占め、他地方にも販売し、江戸に回送されたものも少なくなかった。
 明治時代になると、石川郡郡役場、旧制中学、女学校などがおかれるようになり、南河内の中心都市として、現在の市域に属する村々の他、太子町、河南町、千早赤阪村など、南河内一帯から人々が行き交う活気あふれる町として繁栄した。
 戦後の市街化は、寺内町の周辺部、特に近鉄富田林駅の方面に進み、商店街も駅前に形成された。その結果、富田林の旧町内は、開発の影響を余り受けず、寺内町の町割りとともに近世商家の町並みが軒を連ねる歴史的景観を今にとどめている。

2 保存地区の現況
 寺内町地区には重要文化財の旧杉山家住宅を始め、17・18世紀まで測る重厚な町家が多く残されている。江戸期、明治期の建物は、地区金体に散在しているのではなく、城之門筋、堺町、林町に集中し、数棟単位で連なって立地している。
 しかし、戦後の建物や最近の新築建物も多く、それらの多くに町並みと調和しない改造がみられたり、また、伝統的な町家形式をとらない建物や新建材による建物もあり、寺内町の町並みも部分的にその姿を変えようとしている。
 このような状況の中、富田林市ではミニ開発や老朽化した建物の取り壊しに歯止めをかけるため、景観保全と修景補助を柱とした「富田林寺内町地区町並み保全要綱」を昭和62年4月に施行した。平成9年度までに84ケ蔵で修理・修景事業を実施している。併せて、富田林保育園、寺内町センターなどの公共施設の修景、道路の美装化などの景観保全を進めている。
 地区の現況を建物の構造からみると、木造がほとんどで、非木造、つまりR.C造、軽量鉄骨造が点在している状態である。非木造の建物も2階建のものが多く、規模は小さい。これは地区内に公共施設が少ないことや、商業施設についても近隣商業的性格が強いこと、戦後の市街化が周辺部、特に近鉄富田林駅や官田林西口駅の方向に進み、商業の中心が町域である等内町地区から移動したことと大きく関係している。
 階数についても構造と同じことがいえる。全体としては平屋、中2階建、2階建が大半を占めており、駅に近い方向に3階建以上の建物がみられる。
 地区内にはまとまった空き地が数件見られ、一部は小規模な月極駐草場となっている。しかし、町並みからみれば建物の「歯抜け」は少なく、景観が確立されているといえるが、公園、緑が少ないといった生活環境の課題が残るといえよう。

3 保存地区の特性
 保存地区の南側と東側は石川の流路との間に10メートルほどの高位差がある崖になっており、旧町域の範囲が明確である。また、西側も3〜5メートルほどの落差があり、範囲を容易に読み取ることができる。
 町割の当初の区画は定かではないが、少なくとも18世紀の初め以前には6筋7町で、宝暦3年(1753)から安永7年(1778)の問に1筋1町が加えられ、現在の7筋8町になったものと推定される。
 街路は東西南北に通っているが、直線的に通されるのではなく、街路と街路の交点で、東西又は南北の道路のどちらかが道幅の1/2から1/3ぐらい食い違う形になっている。
 寺内町の諸施設としては、町割と同時期に設けられたと考えられる背割水路がほとんどの街区において残されている。しかしながら、敷地内に取り込まれたり、建物の立て替えの際埋められた部分もあり、現況を確認することはできない。北側の土居は消失しているが、悪水を流した水路は暗渠となり現存している。また、富山町には旧側溝の石橋が残されている。

4 伝統的建造物の特性
 富田林寺内町の町家は、多くのものが街路に正面を接した形式になっている。しかしながら、住宅の形式は、京都や奈良などにみられる奥行きを深くし、通り庭に接して居室を並べていく町家型ではなく、土間に隣あって居室を2列に横方向に並べていく農家型平面を基調にしている。そのため座敷を整えた大規模な民家では敷地の間口が広く、主屋と蔵の間を塀で結んでいるものが多い。
 屋根形式には、切妻と入母屋の区別があり、区画の角に主屋が位置する場合、入母屋、切妻又は八棟造となっている。この場合角にあたる妻側が下手のことが多く、シモミセ・カマヤが配され、同時に中マヤ上部には煙出しが設けられるため、辻景観のアクセントになっている。一方切妻造の場合、妻壁には水切りの小庇がつけられる。この水切小庇は蔵にも多用され.富田林の町家や蔵の外観意匠の特徴の一つともなっている。
 寛永21年(1644)に作られた杉山家文書「河州石川郡之内富田林家数人数萬改帳」には、石高とともに建物の規模と屋根葺材が記されている。これによると大部分の家は「わらや」で「かわらや」はごくわずかにあるにすぎない。ただ蔵は「かわらや」で家財道具や貴重な品を収納する配慮があったものと考えられる。寛永年間まで建立が遡る家はないが、寛永以後に多くの家が藁屋から瓦屋に変わったことがわかる。
 寺内町の町並みは、多くの近世都市と同様に、低い厨子をもった主屋の軒とその下に差し出された庇の連続する面で構成され、主屋のほか蔵や付属屋は塀によって結ばれている。特に、一つの街区を占める大規模な町家の場合、建物を結ぶ塀の意匠は造形上の重要で、細かい配慮がなされている。塀の形は上部に小棟をおき、腰に板を張ったもので、高さ、形状などは主屋の意匠に合わせたものになっている。そして、腰板壁を通すことで一群の民家に統一性を与えている。

5 保存の基本的な考え方
 保存地区の特色は、江戸、明治、大正、昭和と各時代を代表する建物が、近世寺内町の町割り、周囲の環境とともに一つのまとまりをもって、歴史的な景観を形成しているところにある。これは、富田林寺内町が、宮田林の歴史を刻む町並みとして都市の歴史を知る貴重な文化遺産であるとともに、市民の財産であり、かつ、誇りとするものである。
 こうした観点から、地区住民はもとより、全市民的な理解と協力を求めるとともに、地区住民の財産権等を尊重しながら、保存地区に今も残る歴史的、文化的価値の高い伝統的建造物群を末永く後世に伝え、併せて、寺内町の歴史的、文化的な特性を生かしたまちづくりを進め、生活環境の質的な向上、快適性の確保などに務めるものとする。

5 保存地区の範囲
 保存地区の範囲は、富田林町の一部で、約11.2ha

6 保存の内容
(1)近世寺内町の町割について、可能な限り歴史的区画、街路、土居等の形状を将来にわたり残していく。道路、施設計画によってやむを得ず形状が変わる場合は、歴史的遺構が読み取れるような配慮をする。
(2)歴史的街路景観について、街路から望見できる部分の建物の外観について、保存、修景をはかる。
(3)町並みの連続性、一体感を阻害するものについては、適切な修景を施し、歴史的景観との調和を回復するなど、歴史的環境を生かすまちづくりをすすめる。
(4)歴史的環境を生かしながら、緑化、公共施設の整備、防災、住宅の改善など住み良さの拡大を主眼とした町並み景観の保全に務める。
(5)寺内町は市民共有の歴史的遺産であることから、生活環境を阻害しないかたちで、歴史学習、文化観光などの目的で訪れる人の受け入れ体制、施設を整える。
(6)重要な歴史的建造物について、単体としての保存、復原をはかる。

第2章 保存地区における伝統的建造物及び環境物件の決定

1 伝統的建造物群(別表-2及び付図-2)
 保存地区において、主として江戸時代後期から昭和初期にかけての建造物のうち、伝統的建造物群の特性を維持していると認められる建造物を「伝統的建造物」と定める。
 伝統的建造物の決定基準については次のとおりとする。
(1)富田林寺内町の伝統的な(和風の町家)様式、構造手法、材料で造られているもので、次のア〜ウに当てはまるもの
 ア.江戸時代〜昭和時代(戦前)に建築されているもの。
 イ.保存状態のよいもの。
 ウ.復元可能なもの。
(2)昭和時代(戦後)に建築されているもので、様式、構造手法、材料がア.に準じ、外観の保存状態がよく町並みに調和しているもの。
(3)建築物以外の工作物については、伝統的建造物群の特性を維持していると認められるもの。

2 環境物件(別表一3及び付図一3)
 伝統的建造物群と一体をなす環境を保存するため、特に必要と認められる物件を「環境物件」と定める。

第3章 保存地区における建造物及びその他の物件の保存計画

1 伝統的建造物の修理
(1)伝統的建造物は、別に定める修理基準(別表一4)を適切に運用して、形態および外部意匠の保存をはかる。
(2)伝統的建造物のうち、主屋以外の土蔵、土塀等については、各々固有の様式に従って、復原、修理を行い、形態および外部意匠の保存をはかる。
(3)保存修理にあっては、構造耐力上、必要な部外を補強、修理し、耐振性等、防災性能の向上をはかるよう務める。

2 伝統的建造物以外の修景
(1)伝統的建造物以外の建築物等の新築、増築、改築、移転又は修繕、模様替え若しくは色彩の変更は、伝統的建造物群の特性に調和するよう、別に定める修景基準、許可基準(別表一4)を適切に連用して、修景を行う。
(2)公共の用に供する施設や保存地区の歴史的意義を伝え、かつ町並みの重要な箇所となる施設については、建物の外観のデザインで町並みとの調和をはかると同時に、周辺に及ぼす影響を配慮して、敷地の外構の整備、植栽等環境の質的な向上に役立つようにする。

3 工作物
(1)伝統的な様式をもつ塀等については、その様式に従って適宜修理を行い、形態および外部意匠の保存をはかる。また、必要に応じ、復原、修景整備、補強対策を行う。
(2)その他の工作物等については、原則として伝統的建造物群の特性に調和するよう、修景整備する。

4 環境物件
 環境物件は、その保存に務め、その他必要に応じて修理又は修景整備を行う。

第4章 保存地区内における伝統的建造物及びその他の物件等に係る助成措置等

1 経費の補助
 保存計画に基づく事業に対し、次の通り必要な助成を行う。このため「富田林市伝統的建造物群保存地区補助金交付要綱」を別に定める。
(1)保存地区内における伝統的建造物及び地区の環境を保全するために要する経費の一部を別に定める基準により補助する。
(2)町並み保全に寄与するために行われる建物の修景や外構の整備等に必要な経費の一部を補助する。
(3)保全地区で住民による町並み保全の活動を援助するため、町並み保全を目標とする住民活動に必要な経費の一部を補助する。

2 技術的援助
 保全地区内における建造物の修理、修景計画の相談に応じ、併せて指導及び助言を行う。

3 物資の提供
 保存地区内の保存に関し、必要と認められる場合には、物資を提供し、文は斡旋することができるものとする。

第5章 保存地区の保存のために必要な管理施設の設置並びに環境の整備計画

1 管理施設等の整備
(1)市立寺内町センターの管理、活用に関し、住民自治活動や文化活動が有効に行われるよう配慮する。また、センターを拠点とした町並み保存の啓発事業を企画する。
(2)保存地区についての理解を深めるために、必要な箇所に案内板、説明板、標識等を設置する。
 他の機関の設置にあたっては、デザイン等町並みに調和するように指導及び助言を行う。

2 防災設備等
(1)保存地区内における火災の早期発見、初期消火、延焼防止に努めるよう、消防署、地元消防団と十分連係を保ち、総合的な防災システムを確立する。
(2)火災報知設備や消火器等の屋内消火設備の設置の促進と充分な消防用水の確保に努める。
(3)保存地区内の住民一人ひとりに防災の意識を高めるよう、啓蒙活動を実施する。

3 景観阻害物の除去
(1)広告物・テレビアンテナ等の設置にあたっては、歴史的環境の整備を損なわないよう指導及び助言を行う。
(2)電柱、架空電線等は関連合杜の協力を得て、移設又は地下埋設化するように努める。

4 道路の整備
(1)「日本の道百選」に選定された城之門筋を中心に、道路の美装化工事を実施する。実施にあたっては、交通の安全を確保し、伝統的建造物群の特性と調和したものとする。
(2)保存地区内の交通の安全を図るため、通過車両の進入制限を検討する。

5 駐車場の整備
 駐車場の整備については、外来者用の大規模駐車場は保存地区外を基本とし、保存地区内に設置する駐車場は、道路から望見できないよう塀などで修景を施すよう指導する。

6 伝統的建造物の公開
 伝統的建造物のうち必要なものについては、買い上げ又は借り上げにより、一般に公開できるよう整備する。個人所有のものについても公開できるよう、働きかける。

7 その他環境の整備
 良好な生活環境の整備の一環として、街路灯等を設置する。設置にあたっては、伝統的建造物群の特性と調和するようにデザイン等の配慮に努める。

8 地元組織との協調
 歴史的環境を生かし、良好な生活環境の整備を行う上で、地元組織との連絡調整を密にとり、地元住民一人ひとりのまちづくりに対する意識を高め、コミュニティ形成を図る。